NECが2026年8月28日、「SCM AIエージェント」を発表しました。
需要予測だけではありません。
調達交渉、生産計画、在庫計画、物流計画など、これまで人が判断していた仕事をAIが横断して動かす仕組みです。
価格は年間1,800万円から。
当然、小さな飲食店がそのまま導入するようなシステムではありません。
でも私は、このニュースを見て、
個人店でも今から準備できることがある
と思いました。
それは高価なAIを買うことではありません。
AIが判断するためのデータを残すことです。
大企業もAIだけでは何もできない
AIが、
「この商品は来週足りなくなりそうです」
と判断するには、
過去に何個売れたのか。
在庫はいくつあったのか。
曜日や季節で売れ方がどう変わるのか。
そういったデータが必要です。
これは飲食店も同じです。
明日は何人来るのか。
何が何皿売れるのか。
どれくらい仕込めばいいのか。
スタッフを何人入れればいいのか。
こうした判断をAIに手伝ってもらうなら、まず店側に記録が必要です。
最初は5項目だけでいい
私なら、最初は毎日この5つを残します。
客数
売上
注文された商品
曜日
天気
これだけです。
ExcelでもGoogleスプレッドシートでも構いません。
重要なのは、完璧なシステムを作ることではなく、毎日続けることです。
半年ほどデータがたまれば、
「雨の日は客数がどのくらい落ちるか」
「金曜日は何が売れやすいか」
「気温30度以上の日はどの商品が伸びるか」
「売上が高かった日の共通点は何か」
といった店のクセが見えてきます。
前年実績だけでは読めなくなってきた
以前は、前年同月の売上をかなり参考にしていました。
10年ほど前なら、
「去年のこの時期はこれくらい売れた」
「この週は祭りがある」
「連休前だから少し多めに仕込もう」
といった考え方でも、ある程度は営業を読めた感覚があります。
もちろん、これは店によって違うと思います。
でも今は、前年の数字だけではかなり読みにくくなったと感じています。
物価。
天気。
人の動き。
SNS。
イベント。
インバウンド。
給料日前後。
近隣店のオープンや閉店。
少し前ならそこまで意識しなかった要因まで、お客様の動きに影響しているように感じます。
実際、現場にいても、
「今日はなぜこんなに売れたんだろう」
「逆に、なぜ今日はこんなに暇なんだろう」
と、最後まで理由が分からない日があります。
前年同曜日だから。
晴れていたから。
金曜日だから。
それだけでは説明できない日が増えました。
だからこそ私は、売上だけではなく、
その日の天気。
曜日。
注文商品。
客数。
そういった情報を一緒に残していく意味があると思っています。
半年、1年とデータがたまれば、
人間では気づかなかった組み合わせをAIが見つけてくれるかもしれません。
例えば、
「雨の日は暇」
という大ざっぱな分析ではなく、
「雨の日でも気温が高く、金曜日で、特定の商品がよく出た日は売上が落ちていない」
というところまで見えるようになる。
前年実績をそのまま未来へ当てはめるのではなく、
その日の売上を作った要因まで探していく。
私は、これがこれからの飲食店でAIを使う意味の一つになるのではないかと思っています。
本当に使いたいのは「明日の仕込み量」
私が一番使いたいのは、売上予測そのものではありません。
仕込み予測です。
例えば、明日は金曜日。
晴れ。
最高気温33度。
過去半年の似た条件では、
カルボナーラが平均20皿。
牛ほほ肉の赤ワイン煮が12皿。
カプレーゼが15皿。
ハウスワインが60杯。
そんな傾向が分かっていれば、
AIに、
「明日の予想販売数から、必要な仕込み量を出して」
と頼めます。
これができれば、
仕込み過ぎによる廃棄。
仕込み不足による売り切れ。
営業中の追加仕込み。
この3つを減らせる可能性があります。
飲食店にとっては、かなり利益に近いAI活用です。
シフトにも使える
さらに、
時間帯別の売上・客数
と
その時間帯に働いていた人数
も残せば、シフト判断にも使えます。
例えば、
「木曜日だけれど、23時時点の売上が高く、店内客も多い。過去の類似日は深夜帯も売上が伸びている」
と分かれば、
「今日はスタッフを少し長く残した方がよさそう」
という判断材料になります。
逆に、
似た条件の日は深夜売上がほとんど伸びていないなら、予定通り少人数体制へ切り替える。
感覚だけで決めていたシフトを、少しずつデータで補助できるようになります。
個人店が今やるべきことは、AI導入ではない
大企業はAIに調達交渉まで任せ始めています。
でも、小さな飲食店が真似するべきなのは1,800万円のシステムではありません。
まず、
今日何人来たのか。
いくら売れたのか。
何が売れたのか。
どんな曜日・天気だったのか。
これを残すことです。
余裕が出たら、
時間帯別売上。
スタッフ人数。
廃棄量。
在庫。
少しずつ項目を増やしていく。
AIは、データがなければ何も判断できません。
逆に言えば、
小さな店でも半年分、1年分の営業データがあれば、
仕込み。
発注。
シフト。
廃棄。
こうした毎日の判断をAIに手伝ってもらえる可能性があります。
飲食店のAI活用は、
高価なシステムを導入するところからではなく、
今日の営業を数字として残すところから始まる。
前年の数字をそのまま信じるのではなく、
「なぜ今日は売れたのか」
「なぜ今日は売れなかったのか」
その理由を少しずつ見つけていく。
私は今のところ、
そこにAIを使う価値があると考えています。
実際に始めるなら、この5項目だけ記録する
難しい仕組みは必要ありません。
まずは毎日の営業終了後に、次の5項目を残してみます。
| 項目 | 記録する内容 | 例 |
|---|---|---|
| 日付・曜日 | 営業日と曜日 | 9月3日(木) |
| 天気 | 晴・曇・雨+できれば最高気温 | 晴・31℃ |
| 客数 | 1日の来店客数 | 68人 |
| 売上 | その日の税込売上 | 185,000円 |
| 注文商品 | 商品別の販売数 | カルボナーラ18、カプレーゼ12など |
最初から完璧にやろうとすると続きません。
まずこの5つだけ。
慣れてきたら、次の項目を追加します。
- 時間帯別の客数・売上
- その時間帯のスタッフ人数
- 廃棄量
- 在庫量
- 予約数
- イベントや近隣行事
- 特別な出来事
「近くで祭りがあった」「電車が止まった」「団体予約が入った」のような特殊要因も、一言メモしておくと後でかなり役立ちます。
営業終了後30秒チェック表
毎日これだけ入力します。
【日付】
2026年 月 日( )
【天気・最高気温】
晴 / 曇 / 雨
最高気温: ℃
【客数】
人
【税込売上】
円
【主な商品の販売数】
商品名:
販売数:
商品名:
販売数:
商品名:
販売数:
【特記事項】※任意
予約・イベント・交通障害・近隣イベントなど:
POSから商品別販売数を取得できるなら、手入力せずデータをそのまま使った方が楽です。
重要なのは入力作業を増やすことではなく、AIが後から分析できる形で残すことです。
AIエージェント用のフォルダに蓄積すると、さらに使いやすくなる
さらに一歩進めるなら、AIエージェント用に店舗専用のフォルダを作り、毎日の営業データを同じ場所へ蓄積していく方法もあります。
売上、客数、注文商品、天気、シフト、廃棄、在庫などが継続的に蓄積されれば、AIは単発の質問に答えるだけではなく、過去の営業データを参照しながら店の傾向を分析する、より強力な経営補助ツールに育てていけます。
最初から大量のデータを集める必要はありません。
まず5項目から始めて、必要になった情報を少しずつ同じ場所へ追加していく。
大切なのは、AIそのものよりも、後からAIが使える形で店の記録を残しておくことだと思います。
1か月たまったらAIにこう聞く
まだ1か月では「未来予測」と呼べるほどのデータではありません。
それでも店のクセを探し始めることはできます。
ChatGPTなどに表を読み込ませて、次のように聞きます。
あなたは小規模飲食店の経営データ分析担当です。
添付した営業データを分析してください。
データには、
・日付
・曜日
・天気
・最高気温
・客数
・税込売上
・商品別販売数
が含まれています。
まず予測はせず、この1か月で確認できる「事実」と「仮説」を分けてください。
次の項目を分析してください。
1. 曜日別の平均客数と平均売上
2. 晴・曇・雨による客数と売上の違い
3. 気温と売上の関係
4. 曜日ごとによく売れる商品
5. 売上上位5日と下位5日の共通点
6. 客数が多い日と客単価が高い日の違い
7. 現時点で考えられる仮説
8. まだデータ不足で判断できないこと
相関関係を因果関係として断定しないでください。
データから確認できないことは「分からない」としてください。
最後に、来月から追加すると分析精度が上がるデータを3つだけ提案してください。
この段階では、
「AIに答えを出してもらう」より「自分が気づかなかった傾向を探してもらう」
くらいがちょうどいいと思います。
3か月たまったら「仕込み」に使う
3か月ほど続けば、少し踏み込めます。
過去3か月の営業データを分析してください。
目的は「翌日の仕込み量を決めること」です。
明日の条件は、
曜日:
天気予報:
最高気温:
予約人数:
特記事項:
です。
過去データから条件が近い営業日を抽出してください。
そのうえで、
・予想客数
・予想売上の範囲
・主要商品の予想販売数
・通常より増やすべき商品
・通常より減らすべき商品
を出してください。
予想販売数は1つの数字に断定せず、
「少ない場合・標準・多い場合」の3段階で示してください。
データ不足の商品は無理に予測せず、「予測困難」としてください。
最後に、なぜその予測になったのか、参考にした過去営業日の条件を示してください。
ここで重要なのは、
「明日はカルボナーラ20皿です」
とAIに断定させないことです。
18〜22皿程度など、幅を持たせて判断材料として使う方が安全です。
6か月たまったらシフトまで分析する
時間帯別売上とスタッフ人数まで記録していれば、半年後にはかなり面白くなります。
過去6か月の営業データから、
時間帯別の適正人員を分析してください。
データには、
・曜日
・天気
・気温
・時間帯別客数
・時間帯別売上
・スタッフ人数
・商品別販売数
・予約数
が含まれています。
分析したいことは、
1. 人員不足になりやすい曜日・時間帯
2. 人員を入れすぎている可能性がある時間帯
3. 売上1万円あたりの投入人数・人時
4. 客数が急増する条件
5. 深夜帯の売上が伸びる日の共通条件
6. 追加スタッフを残した方がよい条件
です。
人件費削減だけを目的にせず、
注文の取りこぼし、サービス品質、再来店への影響も考慮してください。
相関だけで因果関係を断定しないでください。
最後に、
「スタッフを通常より増やす」
「通常配置」
「少人数でも対応可能」
の3段階で判断するための暫定ルールを作ってください。
ここまでくるとAIは単なる集計係ではなく、
「今日はどう営業するか」を考える補助役
になってきます。
AIの分析を鵜呑みにしない
ここは最後に強く書いておきたいです。
例えばAIが、
雨の日は売上が20%低い
と分析したとしても、
「雨が原因で売上が落ちた」
とは限りません。
その雨の日がたまたま火曜日だった。
近隣イベントがなかった。
予約が少なかった。
そういった別の理由が隠れている可能性があります。
AIが得意なのは、人間が見落としていた関係を見つけること。
最終的に、
「なるほど。確かに現場でもそうだった」
と確認するのは人間です。
だから私は、
AIに経営を任せるのではなく、経営判断の材料を増やすためにAIを使う。
このくらいの距離感が、小さな飲食店にはちょうどいいと思っています。
記録する。蓄積する。AIに分析させる。そして営業で確かめる
結局、やることはそれほど複雑ではありません。
記録する。
蓄積する。
AIに分析させる。
営業で検証する。
そして、
また記録する。
この繰り返しです。
AIが出した答えが正しかったのかは、実際の営業でしか分かりません。
予測より売れた。
思ったほど売れなかった。
仕込みを減らしても問題なかった。
スタッフを一人残したことで営業がスムーズになった。
そうした結果も、またデータとして残していく。
すると次の分析では、前回より少し判断材料が増えます。
記録 → 蓄積 → AI分析 → 営業で検証 → 再び記録
この循環を続けることで、AIも店側も少しずつ判断の精度を上げていける。
私は、これが小さな飲食店にとって現実的なAI活用の形だと思っています。

